光のもとでⅠ

15

 二時前には家に着いて、三時半には必要なものをすべてバッグに詰め終わった。
 洋服はたたんで入れられるものはバッグに入れ、ハンガーにかかっていたものはそのままハンガーにかけられた状態で一時掛けしてある。
 引越し業者さんが来ると、ハンガーにかかった状態でボックスに詰めてくれるらしい。
 私にとっては初めての引越し作業。
 実質的には間借りするだけで、本当の意味での引越しではないけれど――。
 このフロアハープは、家に届いてから一度もこの家を出たことはない。
「あなたも私と同じね……」
 ハープの高さは百四十センチ、重さは十六キロもある。
 この部屋ができるまでは二階のピアノが置いてあるスペースに置いてあった。この部屋ができてから、私と一緒に二階から下りてきた子。
 少し考える。この部屋からフロアハープがなくなったら……と。
 部屋の中央に置いてあるフロアハープがなくなると、四畳半ほどのスペースがぽっかりと空く。 
 ただハープがなくなるだけなのに、寒々しい部屋に思えた。
「翠葉ちゃん、こちらはどうされるのですか?」
 声をかけられてそちらを見る。と、高崎さんが「こちら」と指したのはこの部屋に置いてある観葉植物だった。
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