光のもとでⅠ
「泣きたいだけ泣いていいよ」
 スカートを膝までたくし上げ、膝の上に乗せる。
 両手でタオルを受け取ると、それは手にもあたたかく、顔に当てるとじんわりと肌が沁みた。
「せっかく連れてきてもらったのに、ごめんなさい……」
 タオルに顔を押し当てたまま、くぐもった声を発する。
 こうすることで涙声もごまかせる気がした。
「翠葉ちゃん、今回ここには療養に来たんだよ」
 秋斗さんの優しい声音がバスルームに反響して聞こえる。
「君は身体を休めるためにここへ来たのであって、写真を撮りに来たわけじゃない」
 療養――。
「思い出して? 君は木曜日に病院へ行かなくちゃいけないほどひどい発作を起こしたんだ。そして、三日間ゆっくり休むようにって言われたよね? 横になってる必要はないみたいだけど、逆に仕事をしていいとも言われていない。むしろ、ダメなんじゃない? ……ごめんね。俺は翠葉ちゃんが写真を撮りたいんじゃないかなと思って声をかけただけだったんだけど……。前回来たときは写真を撮ることに熱中してしばらくは戻ってこないくらいだったから」
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