光のもとでⅠ
「昇さん、記憶が……」
「部屋で聞こう。ここは冷える。身体は冷やすな」
「さ、立ちましょう?」
 栞さんに促されて立ち上がる。
 まだ五時にはなっていなかったけれど、部屋に戻り、私がお風呂に入ったら治療を始めることになった。

 連れていかれた部屋は、ホテルの一室という感じではない。
 こんなお部屋に泊るのは初めてだ。
「だって、リィ……この部屋、このパレスで一番いい部屋だもん」
 唯兄はさも当たり前のようににこりと笑うけれど、私はその事実に身震いした。
 ウィステリアホテルの中でもパレスは別格だということくらいは知っている。
 その中の一番いい客室ってっ!?
 いったい一泊どのくらいするのだろう……。
 どうしても私の考えはそちらへといってしまう。
「翠葉翠葉、考えない考えない……」
 蒼兄が一緒に暗示にかかろう、とでも言うように口にする。
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