光のもとでⅠ
「秋斗さ――」
「やだって言えないなんて言われたらさ、なんでもしたくなっちゃうよね」
「っ……秋斗さん、お茶、零れちゃうっ」
 一生懸命平静を装っても、「置いたら?」と耳もとで囁かれることでまた心臓がぴょんと跳ねる。
 とりあえず呼吸っっっ――。
 息を吐き出し、もう一口だけ飲んでカップをトレイに置こうとすると、その手からカップを取り上げられた。
 まだ熱いはずのそれを秋斗さんは一気に飲み干してしまう。
「はい、これでもう零れることはないと思うけど、持つ? それとも置く?」
 中身が空になったカップを見せられた。
 きっとまだカップはあたたかく、手をあたためてはくれるだろう。でも――。
「中身が入ってないのなら置きます」
 奇妙な問いかけに奇妙な返事。
 そんな会話に身体中の力が抜けた。
 秋斗さんがカップをトレイに置くと、
「逃げないの?」
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