光のもとでⅠ
「翠葉、ここ教えてくれない?」
 後ろから桃華さんの声。
 恐る恐る振り返る。と、数学の問題集は開かれていなかった。
「私、何かした?」
「っ……!?」
 桃華さんの、ガラスのような目が私を捕らえて放さない。
「……何も」
 そう答えるのが精一杯だった。
 桃華さんは何もしていない。誰も何もしていない。
 なのに、この視線にすら耐えられそうにはない。
 何かしているとしたら、それは私のほうなのに――。
「今は話せそうにないみたいだから理由は訊かないけど、一応確認だけはしておきたかったの。わからないのはこの問題」
 と、桃華さんは問題集を開いた。
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