光のもとでⅠ
 ――「あなたはいつまでここにいるの?」
 ――「私は検査入院なので、明後日には退院します」
 ――「そう……何も異常がないといいわね」
 お姉さんは儚くきれいに笑った。
 ――「通院の日に会いに来てもいいですか?」
 ――「お見舞いに来てくれるの?」
 ――「はい。お姉さんはお花は好き?」
 ――「好きよ。でも、お花屋さんで売っているようなものじゃなくて、庭先に咲いているハーブのほうが好き」
 ――「どうして?」
 ――「知ってる? ハーブって強いのよ。どんなに強く風が吹いても雨が降っても陽が当たればリセットされるの。ミントやローズマリーは水に挿しておけば発根するのよ? その生命力の強さに憧れる」
 ――「それじゃ、おうちに咲いているハーブを摘んできます」
 ――「楽しみに待ってる」
 ――「私、御園生翠葉です。お姉さんのお名前は?」
 ――「あら、きれいな名前。でも……私の名前は秘密」
 ――「どうして……?」
 ――「願掛け。あなたにも一緒に願掛けしてほしいから」
 ――「願掛け……?」
 ――「そう……ユイちゃんが来てくれるように。ユイちゃんが来てくれたらあなたに名前を教えるわ。だから、ユイちゃんが来てくれるように一緒に祈ってね」
 ――「ユイちゃんはお姉さんの姉妹? お友達?」
 ――「……とても大切な人よ」
 ――「どうして来てくれないの?」
 ――「家族だから、かな」
 ――「……家族なのに来てくれないの?」
 ――「あなたはいいわね。優しいお兄さんが来てくれて」
 そう口にして、お姉さんは寂しそうに微笑んだ。
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