光のもとでⅠ
「翠、まだ?」
 気づけば催促を口にしていた。
 はっと顔を上げた翠に
「早く行ったほうがいいぞ~」
 海斗が言えば、慌てて廊下に出てきた。
 走るな、とも言いたかったけれど、焦らせたのが自分とあらば怒るわけにもいかず……。
 だったらもっと余裕を持って出てこい、とも言いたくなるけどそれも言わない。
 ただ、「遅い」とだけ言わせてもらった。
 翠は「ごめんなさい」と頭を下げる。
「……頭を下げられるほど怒ってない」
 廊下を歩きだし、
「さっき何話して――やっぱなんでもない」
 言いかけてやめた。
 訊きたいとは思ったけれど、こういうことを訊くこと事体が自分らしくない気がして。
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