光のもとでⅠ
「私がいなくても困らないものね」
 翠は手の甲で顔を隠し、しゃくりあげ始めた。
 あ――勘違い……。
 いや、違うな。勘違いではなく、俺の読みが浅かっただけだ。
 学校を休みたくないのは意地になっているからじゃない。
「……困る。翠がいないと困る。誰が計算やるんだよ」
「そんなの、電卓があれば困らないじゃない」
 翠が恐れているのは――自分の居場所がなくなること。
 俺の中で翠に代わる人間なんていないのに。
「一緒に練習しなくちゃいけない歌の練習だってあるだろ」
「一曲だけだもん」
「伴奏してもらう曲を含めたら二曲」
 俺が必要だって言ってる。
 もっとストレートに言えたら――たとえば、歌の歌詞のように……。
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