光のもとでⅠ
 ……どうして、笑うの?
「翠葉ちゃん、ちょっと訊きたいんだけど、何がどうしてそういう質問だったのかな?」
 秋斗さんに尋ねられる。
「だって……ごめんなさいとお辞儀はセットでしょう?」
「くっ、そういうことか……」
 と、またおかしそうに笑い出す。
 どうして笑われてるのかがわからなくて困る。
 尋ね先の蒼兄は壁に縋って笑っているのだからひどい……。
「どうしてこんなに笑われなくちゃいけないの?」
 私に背を向けている蒼兄に訊くと、蒼兄ではなく秋斗さんが答えてくれた。
「ちょっと俺たちにはツボだったんだ」
 そこへ笑いが少し引いたらしい蒼兄がメガネを外し、涙を拭きながらやってきた。
「翠葉、今は体起こせないだろう? 体が起こせるようになるのを待っていたら当分は謝れなくなっちゃうよ。それに、先輩は翠葉の状態を知っているわけだから、お辞儀がセットじゃなくても問題ないよ。確かにうちでは人と話すときは人の目を見て、とか、謝るときは頭を下げて心から謝るって躾けられているけれど、すべてがその限りじゃないよ」
「そうなの……?」
「そう。先輩がね、翠葉にプリン食べさせたいって言うから、俺はあっちにいるよ」
「え……!?」
「大丈夫だよ。もう一度、ちゃんと話してみな」
 蒼兄がこの場からいなくなってしまうことを心細く思っていると、
「翠葉ちゃん、もう一度話をしよう」
 私を覗き込む顔は怖いものではなく、気づけば私は「はい」と答えていた。
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