光のもとでⅠ
 スタンウェイはただでさえ響きが豊かだから、それを声楽とセットにしてもバランスがいい音場にするのには苦戦したそうだけど――。
 出来上がりはこの通り。
 茜先輩が感心するほどにはいい出来のようだ。
「じゃ、軽く発声練習からね」
 ピアノの前に座る茜先輩に言われる。
 一瞬目が合ってにこりと微笑まれた。
 この人は何も訊いてこない。
 そういう人だ。
 一通り発声練習を終えると、割り当てられている歌の練習にはいる。
 翠が、
「ツカサと歌う曲だけはどう歌ったらいいのかわからないです」
 そんなこと――文句なら俺に言わせろ。
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