光のもとでⅠ
 今年は例年のそれとは違ったというから、翠は自分の身体と学校のことを考えるだけでいっぱいいっぱいだったのだろう。
 そんなときに頼ってもらえない彼氏っていうのも嫌だけどな……。
 少し歯車がずれただけでこの有様。
 翠が夏休みに話してくれたこと。
 ――「一度歯車が狂うとね、そう簡単にはもとに戻ってくれないんだよ。別の時計――別の時間が動き出しちゃうの」
 その意味が嫌というほどにわかる。
 それで自分が機会を得たとは思えなかった。
 翠の時間軸がずれたのは一年前の発作。
 留年する原因になった発作や入院。
 本人はそれがなかったら藤宮に来ることもなく、俺たちと出逢うこともなかったから、それは神様がずらしてくれた時間軸のプレゼント、と言っていたけれど……。
 翠がこの学校に来て俺たちと出逢ったこと――。
 そのことに感謝はできても、雅さんの件や記憶を失ったいきさつ、それには感謝なんてできない。
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