光のもとでⅠ
 そうは思ったけれど、きっとこれだけは自分で持ちたかったのだろう。
 大切なものだからこそ、自分の手で――。
「うん、そうだね。着替えなんかは蒼樹が持ってるみたいだし、カメラは若槻かな? これはハープだもんね」
「あ、はい……」
 でも、その大切なハープを俺に持たせてほしい。
 彼女は少し慌てては困ったような顔をした。
 困ったことに、本当に困ったことに――俺は彼女を困らせたくないと思いつつ、困った顔をする彼女も好きだったりする。
 もちろん笑顔が一番好きだけど、俺の言動で困ったり焦ったり……そんな彼女も好きなんだ。
 どうしようもない人間だと自覚しつつ、彼女の表情や言葉に一喜一憂している。
「翠葉は先輩の車に乗りな」
「えっ!?」
 彼女は前を歩く蒼樹の一言に慌てる。
「嫌?」
 そう訊くことで、彼女が断れなくなるのは知っている。
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