光のもとでⅠ
 だから言っているのか、それとも彼女の意思を尊重したいのか。
 それすらもわからず問いかける。
「嫌、というわけではなくて……。少し、いえ、すごく緊張するだけです」
 慌てて否定してくれたときは俺の顔を見ていたのに、「緊張する」と口にしたとき、視線は足元へと落ちていた。
 若槻が彼女の隣に並ぶと、
「リィ、大丈夫だよ。サービスエリアで一度合流するし、それまで一時間ちょいだから。我慢我慢っ! いくら秋斗さんでも高速走りながらは悪さできないから安心しな」
 俺、気分的には新生藤宮秋斗なんだけど……。
「若槻くん……あとで上司の部屋まで来るように。社会人としての常識を――」
「若槻唯はただいま二日間の休暇をいただいております」
 このやろう、と思ったのは一瞬。
 だって彼女がクスクス、と声を立てて笑ったから。
 持つものがなくなったその手で口もとを覆い、おかしそうに笑った。
 そして、俺たちよりも二メートルほど先を歩く蒼樹を追いかけた。
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