光のもとでⅠ
 静さんが、「何のためのフリーパスだと思っているんだ」とたまにごねるが、きっと翠葉ちゃんはそれでも使わないだろう。
 俺はたまに仕事で使うものの、仕事で使うために会社から費用が出ている。
 あとは、周りに気を遣わずうまい酒が飲みたいときだけに足を運んでいたが、胃潰瘍になってからはそれもない。
 今後私用で使うのなら、彼女と一緒のときだけでいい。
「翠葉ちゃん、俺と翠葉ちゃんは静さんからフリーパスをもらってる人間だよ?」
 彼女の顔を覗き込むと、一瞬頭にクエスチョンマークが浮かんだような顔をした。
 きっと、すべての記憶のありとあらゆる場所に空白があり、忘れていないはずのものまで記憶の取出しがスムーズにいかないのだろう。
 そんな彼女を目にすれば、やはり記憶は戻ったほうがいいのだろう、と思う。
 フリーパスの説明を簡単に済ませると、
「……因みに、普通に泊るといくらくらいするんですか?」
 貼り付けたような笑顔で訊かれた。
< 4,201 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop