光のもとでⅠ
「どうにもならなかったとき、サインだけをいただきに、二時間もかけて馳せ参じるのはご遠慮申し上げたいので」
 蔵元は営業スマイルを浮かべた。
「そのほうが秋斗様もお嫌でしょうから?」
 っていうか、それを見るのは社長――つまりは父さんだけのはずで……。
 蔵元が書類をケースに戻すと翠葉ちゃんに声をかけた。
「気負わずに楽しまれますよう――」
 彼女の顔が一瞬にして強張った。
 もしかしたら、記憶を思い出すための旅行だと、そう認識しなおしたのかもしれない。
「お嬢様……?」
「え、あ……」
 蔵元がコンクリートに膝をつき、
「どうか気負わないように」
「はい……。あの、蔵元さんひとりお留守番でごめんなさい」
「お気になさらず。これで二日間は羽を伸ばせます」
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