光のもとでⅠ
「……そうなんですか?」
「はい。誰かのお守りや誰かの使いぱしり。誰かの――」
 俺は便宜上の笑顔を再生する。
「蔵元、土産はないと思え」
 蔵元のスーツを後ろから掴み、猫をつまみあげるように上方へ引っ張った。
「最初から期待などしておりません」
 若槻も若槻だが、蔵元も蔵元だ。
 俺の部下は優秀だが一癖あるらしい。
「ただ、運転だけはお気をつけください」
 肩越しにこちらを見る目は、「お命は大切に」と言っていた。
「わかってる。彼女を乗せて無茶な運転はするつもりない」
 そう言って彼女を助手席に座らせるとドアを閉め、運転席に周りこむ。
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