光のもとでⅠ
「俺は建物を見て周りたいから、敷地内ぶらぶらしてると思います。それにどうしても唯がついてきたいっていうなら別にかまわないけど」
 ニヤリ、と蒼樹が笑うと、
「俺もホテルの中も外も見て周りたくて来てるから、あんちゃんがどうしても、っていうなら内部に連れてってあげてもかまわないよ?」
「……どっちにしろ一緒に行動だな」
 そう答えた蒼樹を見て、若槻は「ウィナー!」と手を上げた。
 年相応――。
 若槻の綱渡り人生は終わったな。
 もう、過去を引き摺って自殺を考えることはないだろう。
 俺は近しい身内を失ったことがない。一番近くても祖母だ。
 だから、若槻が受けた傷の深さはわからない。
 あとを追いたくなるほどに仲のいい家族だったという情報はなかったが、妹とはそれなりに仲が良かったらしい。
 いつかの蒼樹を思い出す。
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