光のもとでⅠ
 一年半前――携帯の着信を不審げな表情で出たかと思うと、血相を変えて仕事部屋を飛び出そうとした。
 蒼樹の妹溺愛振りはよく知っていたが、その後の行動パターンをもすべて変えるほどの存在というのがわからない。
 俺には弟がいるが、生死を彷徨う状態になればそれなりに心配はするだろう。
 けれど、自分の生活を変えてまでお見舞いに行くとか、そういうことはしない気がする。
 これは弟と妹の差なのだろうか。
 それだけなのかそれだけじゃないのか――。
 人が走ってくる気配がして振り返ると、
「お待たせっ!」
 栞ちゃんが翠葉ちゃんの手を引っ張って走ってきたところだった。
 たかだか数メートルだけど、走っていることに不安になる。
 彼女の鼓動を知らせる携帯は少しだけ速まるものの、とくに具合が悪くなりそうな感じではなかった。
< 4,217 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop