光のもとでⅠ
「零樹さんと静さんから話は聞いたよ。翠葉ちゃんらしいけど、こんなときまでそんなふうに笑わなくていいから」
 彼女の身体から力が抜けるのがわかる。
 力が抜ける、というよりは、俺に体重を預けてくれている。
 こんなふうに心も預けてくれたらいいのに……。
「大丈夫です……大丈夫じゃなくちゃだめ――」
「……君は人には優しいのに自分には厳しいね。……とりあえず、一度部屋へ戻ろう?」
 少しだけ彼女との間に空間を作り提案すると、彼女はこくりと小さく頷いた。
 カメラケースを持ち、彼女をそのまま抱き上げる。と、
「あのっ、自分で歩けますっ」
 言葉のみで小さく抵抗される。
 ただ、身体には力が入っていなかった。
 それは抵抗するつもりがないわけではなく、力が入らないから、な気がした。
< 4,268 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop