光のもとでⅠ
 周防があたためなおしてくれたそれは、微々たるぬくもりすら残っていない。
 でも、弁当っていうものはよくできたもので、温かくても冷めてしまっても美味しく食べられるようにできている。
 今日は鮭弁当だ。
 毎回思うんだけど、この鮭の焼き加減が絶妙。
 つまりはうまい。
「まさか、静が翠葉を専属契約するなんて考えもしなかったんだよ。一度きりの採用、そう考えてた」
「反対だったのか?」
 同じように弁当の蓋を開けた静が、若干目を見開いて顔を上げる。
「いや、そうでもない。どちらかというといい経験になるかな、と思った」
「その割にはそんな顔をしていないけどな」
「親ってのは複雑なんだよ。翠葉はさ、将来ってものにえらい不安を抱いている子でね……。でも、うちは自営業だからさ。最終的には俺たちの親元に就職できるわけだよ。けど、それじゃぁ翠葉は『外』を見ることはできないんだ」
 こんなこと高校に通い始めるまでは考えもしなかったんだがなぁ……。
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