光のもとでⅠ
「きゃっ――」
 左手を引っ張られる感じがしてすぐに振り返る。と、俺の胸に彼女が着地する。
「危機一髪……」
 あの日の帰りを思い出す。
 今は暗がりで顔の色までは読み取れないけれど、きっと真っ赤になって恥ずかしそうにしているのだろう。
「すみません……ちゃんと足元見て歩いてるんですけど……」
「もう少しゆっくり歩こうか」
 徐々に冷たくなる彼女の手は気になるけど、転ばれるよりはいい。
 それに、森を抜ければあたたまることはできるのだから。
 つなぐ手にさっきよりも力がこめられる。
 ただ、転ばないように、と力が入っているだけなのに、自分の手を頼りにされていることが嬉しいと思う。
 こんなことに幸せを感じる。
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