光のもとでⅠ
「じゃ、俺は向こうで着替えてくるね」
「はい」
 着替えを手にバスルームへ向かうものの、背中に張り付く視線が痛い。
 でも、何かを思い出してくれているのだとしたら――。
 振り返りたい衝動を抑え、バスルームのドアを開ける。
 今日のスーツは、以前翠葉ちゃんの前で着たことがあるものだ。
 ネクタイや中に着たシャツは違うものだから、雰囲気は多少変わるかもしれないけれど、彼女が見て赤面したスーツに変わりはない。
 思い出して――俺と過ごした時間を。
 俺がしたことのすべてを――。
 何度考えてもはじき出される答えはひとつ。
 俺は、君と過ごした時間を幸せだったと思う。
 交わした言葉、何度かのキス、抱き締めたときの君の表情、君のぬくもり。
 泣いた顔も笑った顔も、どんな君も、どれも大切な時間で大切な思い出。
 思い出したあと、どう思われてもいい。
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