光のもとでⅠ
 間接キスなんて柄でもないんだけど……。
 彼女のカップを奪い、そうする自分はどうしたものかな。
「はい、これでもう零れることはないと思うけど、持つ? それとも置く?」
「中身が入ってないのなら置きます」
 本当は密着したままでもカップは置けた。
 でも、少しだけ逃げ出す猶予をあげようと思ったから、身体をほんの少し離して腕の力も緩めた。
 けれど、彼女が動く気配はない。
「逃げないの?」
「困ってはいますけど、対処できなくて逃げるほどには困っていません」
 意外すぎる返事に、思わず口もとが緩む。
「秋斗さんに言われたとおりなのかな……? 少し慣れたのかも」
「なんの話?」
 俺、何を言ったっけ?
 ただ、逃げないでくれる、というだけなのに、嬉しくてほかのことが考えられそうにない。
< 4,342 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop