光のもとでⅠ
 自分の携帯を見れば三十七度四分――微熱。
 俺たちからしてみれば移動距離が長いくらいでさほど動き回った感じはない。
 けれど、彼女の場合は身体を起こしている時間が長いだけでも負担になるのだろう。
 ここへ来たことで彼女にプラスになることはあったのだろうか。
 身体を起こし、ポンチョやパーカを脱がす。
 当たり前だが、情事の前に脱がすのとは全然違う。
 脱力した人間の服を脱がせるのってこんなに大変なんだな。
 真面目に苦戦していたときだった。
「蒼兄、ごめんなさい……。ちゃんと脱ぐ」
 彼女は覚束ない手で着ているそれらを脱ぎ始めた。
 俺を蒼樹だと思っている時点で思い切り寝ぼけているとしか言いようがない。
 俺はそれに何も答えず、ただ彼女が洋服を脱ぐ手助けをしていた。
 パーカを脱ぎ終わると、ことが切れたようにパタリと横になる。
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