光のもとでⅠ
 昨日はよくわからなかった。でも、栞さんの言うことが正しいのなら、それはとても切ない……。
 自分の好きな人が自分ではない別の人を想っていて、自分のことは見てくれない。でも、好きな人が笑顔ならいいなんて――そんなふうに私は思えるだろうか……。
 思えない気がする……。
 苦しくて苦しくて、その人を見ることすらやめてしまいそうだ。
 私の恋は自分主体……?
 司先輩の恋は相手主体……?
 ……どうしたら、どうしたらそんなふうに相手を思いやれるのかな。
 どうしたら、そんなに優しくなれるのかな。
 ……司先輩が私に優しかったのは、自分がつらい恋を知っていたからなのかもしれない。そんな人に、「がんばってください」なんて、簡単にかけちゃいけない言葉だったかもしれない。でも、だとしたらどんな言葉をかけられただろう。
 ――ないな。
 かけられる言葉なんてない。言えることがあるとしたら、つらくなったら話を聞きます、くらい。
 あ……だから、悩みがあったらいつでも聞くって言ってくれたの?
 ……すごく優しい人なのにすごくわかりづらい。
 でもいつか、司先輩の心に届く優しさを持てる人になりたいな――。

 十二時前になると栞さんが部屋に顔を出した。
「じゃ、私は実家に行くけど秋斗くんが来るまではゆっくり休んでなさい」
「はい」
「お昼ご飯は秋斗くんが何か買ってくるって言ってたけど、食べられなければスープがあるから気負わなくていいわ」
 お布団をかけなおしてくれる手を咄嗟に掴んでしまう。
 栞さんは「慣れよ」と言って部屋を出ていった。
 栞さんがいなくなってすぐは、しんとした部屋に自分の鼓動がうるさく思えたけれど、それも束の間で、私はいつしか眠りに落ちていた。
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