光のもとでⅠ
「ほらほら、向こうに行った行った」
 その場から俺を引き剥がそうとした兄ちゃんは正しいと思う。
 そうだよ、ここで離脱しておくべきだったんだ。
 なのに、俺の手はドアレバーを掴んだままだった。
「朝から急に、なのは翠だけで、俺は昨日の帰りからずっと考えてた。……やっぱり、俺は言いたいことは言っておかないと気が済まない。そういうふうに翠が考えるのは仕方がないことなのかもしれない。翠がバカでこういうことに関しては学習能力が乏しいのも理解したけど、あまり俺たちを侮るな。翠の中学の人間と一緒にするな。考えただけでも虫唾が走る。言いたいことはそれだけだ」
 これを聞いてしまった時点でアウト。
 たぶん、最後の分岐点だったところを通過した。
 まだこのときは気づいていかなったけど……。
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