光のもとでⅠ
 このやり取り、夏休み中に何度したと思ってる?
「……微熱があるけど大丈夫」
「本当はバスに乗せたいところだけど、バスじゃゆっくり話しなんてできそうにないから歩くよ」
 そう言って、桜香苑へと続く道に足を向ける。
 歩かせたら疲れさせる。
 でも、バスに乗って風邪をひいた人間がいても困る。
 それに、バスの中で翠が話せる内容ではない。
 そういう意味では、御園生さんが送迎するのが一番良かったわけだけど、俺は夕飯前に決着をつけたかった。
 夕飯時、周りに変に勘ぐられるのは面倒……。
 病院の帰りは兄さんが送ってくれる。
 今日は夜勤明けで昼過ぎまでの勤務だと聞いていたから、そっちはすでに手配済み。
 俺は一緒でも別でもどっちでもいい。
 翠のペースだと、高等部から大学敷地内まで十分ちょっと。
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