光のもとでⅠ
「翠、それ携帯だから。何か話さないと通信が成り立たないんだけど」
 ツカサに言われて何か言葉を発しようと試みるものの、
「あ……あ――」
 急に話し方のわからない人になってしまった気分だ。
 なんて口にしたらいいのかがわからない以前に、自分が何を発しているのかも定かではない。
『……メール、ありがとね』
 メール――。
 どうして、ありがとう、と言われているのだろう。
『電源切ってたのは返信メールとかこういう電話がかかってくるのが怖かったからでしょ?』
 和光くんは私が何を話さずとも、応答を確かめることはせずに先を続ける。
『今までの翠葉っち見てれば、どれだけ勇気を出してこのメールを書いたのかくらいは想像できる。でも、昨日の今日でメールくれたから許す。こんな早くに行動に移すとは意外だった。それってさ、つまりは取り返しのつかない状況にはしたくないってことでしょ? 俺はさ、メールの内容よりも、その気持ちのほうが嬉しかったんだよね。だから俺はそれでいい。じゃ、ほかにも話したいやついると思うから、俺は切るね』
 そう言われて通話が切れた。
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