光のもとでⅠ
 きっとさっきの出来事で不機嫌なのだろう。
 どうやって謝ったらいいのかな……。
 秋斗さんのことは好き。でも、少し怖いと思う自分もいる。
 最初のうちは抱き締められるのもキスされるのも、ドキドキはするけれども嬉しいという感情もあった。
 でも、今は嬉しいよりも怖いという感情のほうが多く占める。
 "キス以上"のことを意識したら、途端に怖くなってしまった。
 自分の知らない未知の領域だからだろうか。
 そんなことを考えていると、背後でエレベーターのドアが開いた。振り返った蒼兄が咄嗟に声をかける。
「司、ずいぶん濡れたな」
 エレベーターから降りてきたのは濡れ鼠の司先輩だった。
「……水も滴るいい男?」
 思わず口をついた言葉。
 その言葉にほかの人たちが絶句した。
「わ……余計なこと言ったかも」
「翠……感情駄々漏れっていうか、口から漏れてるから」
 呆れ気味に答えたのは司先輩本人だった。
「すぐそこまで来て急に降られた」
 と、滴る前髪をうざったそうにかき上げる。
 うわっ――格好いいっ。
 いつも前髪を下ろしているから知らなかったけれど、司先輩は前髪を上げていても格好いいんだ――。
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