光のもとでⅠ
 唯兄が開閉ボタンを押した直後、エレベーターホールにある安全ミラーに人が映ったので、咄嗟に車椅子用の開閉ボタンに手を伸ばす。
「悪いね」
 言いながら入ってきたのは中年の男の人と女の人。
 その人たちが行き先の番号を押すと、女の人が私たちを振り返った。
「何か?」
 答えたのは唯兄。
「あら、ごめんなさいね」
 女の人は不思議な表情をしていた。
 顔は笑っているのに目が笑っていないのだ。
「九階にはご家族がいらっしゃるのかしら?」
「えぇ、そんなところです」
 唯兄がどうしてそんな答え方をするのかは知らないけれど、この場で私は口を開かないほうがいい気がした。
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