光のもとでⅠ
 俺はそれでも嬉しいけど、彼女はどうなのだろう……。
 投薬を遅らせてまで、そうまでして俺とのデートを確保してくれたのに、どうして俺は今日振られるんだろう。
 納得はいかない。でも、意を唱えることもできない……。
 シャワーのコックを捻りお湯を止める。
 両手で髪をかき上げ後ろに流し、鏡に映る自分を見た。
「情けない顔……」
 そのまま出ようかとも思ったが、もう一度レバーを捻り冷水を浴びた。
 ぬるま湯ではなく、正真正銘の水――。
 あぁ、こういうのって心臓に悪いんだっけ……。
 そんなことを思いつつ、それでも冷水を浴びた自分は幾分かすっきりとしたように見えた。

 バスルームから出ると、家全体にコーヒーの香りが満ちていた。
 キッチンで一口含み、
「苦いな……」
 とくに分量を間違えたわけでもなければ、とくだん苦かったわけでもない。
 カップ片手に目に入ったものに手を伸ばす。それは彼女の誕生日に上の戸棚から下ろしておいたカモミールティー。
「ハーブティーに慣れたかな」
 ふと笑みがもれた。
 彼女に出逢わなければハーブティーを飲むようにはならなかっただろう。
 何がどう巡ったかは知らない。けれど、彼女は俺の人生に足を踏み入れた。
 ただそれだけのこと。
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