光のもとでⅠ
 家を出て隣のインターホンを鳴らせば栞ちゃんが笑顔で迎えてくれた。
「秋斗くん、今日は翠葉ちゃんをお願いね。これ、荷物だから運んであげて」
「翠葉ちゃんの体調は?」
「さっき湊が滋養強壮剤を飲ませたから半日はもつと思うわ」
 なるほど……。それで体温が少し上がったのか。
「わかった。申し訳ないけど、何かあったら連絡させてもらうね」
 荷物を引き受け、先にエレベーターホールへ向かった。
 ドアが閉まる音がし、栞ちゃんの家を振り返る。
 彼女を視界に認め、すぐに逸らす。
 ……何、俺、今何を見た……?
 翠葉ちゃん、だよな……?
 もう一度振り返ると、足元に視線を落とし動けずにいる彼女が目に入った。
 確かに、そこに立っているのは彼女なのに、何もかもが違う。
 サイドの髪の毛を上げているから、彼女の表情はすぐに読めた。
 やばい、不安がらせた――。
「翠葉ちゃん、ごめん……。違うんだ――エレベーター来たから、だから……おいで」
 誤解を解く言葉も口にできず、彼女を呼び寄せる。けれども、彼女は一歩も動かなかった。
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