光のもとでⅠ
 つまり、私が一、二年棟の二階を野球場の方へと向かって歩くことはめったにないのだ。
 あるとすれば、トイレへ行くときと、一階なら保健室へ行くときのみ。
 いつもはガランとしている廊下も、今は廊下に出ている人が多く、その大半がA組の方へ向かって歩いていた。
 あちこちから「姫だ」という声が聞こえてきて、そのたびにどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
 少しでも自分を落ち着けたくて、とんぼ玉に手が伸ばす。
 しだいにその手は肩へと落ち、左腕にはまっているバングルを制服の上から押さえていた。
 もう夏服ではないから人目につくわけではない。それでも、隠したい衝動に駆られる。
 胃がさらにキリリと音を立てた気がした。
「御園生」
 後ろからかけられた声に振り向くと、佐野くんが立っていた。
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