光のもとでⅠ
 ピアノを弾くといっても、弾くのはツカサの伴奏のみ。
 歌の練習をしようと思っていたわけではなかった。
 何度か伴奏をさらうと、今度は同じファイルに入っている自分が歌う歌詞に目を通す。
 それらの曲は無意識に口ずさめるくらいには、私の身体にも頭にも馴染んでいた。
 なのに、今日、図書室でした会話がどうにもしっくりこない。
「ガーネット」と「小さな星」は恋愛の歌であるとわかる。
 それは歌詞の中に「恋」という言葉が入っていたり、「好き」は「好き」でも、家族や友達を思うものではないんだろうな、と思えたから。
 ほかの曲は何度読み返しても、何度口ずさんでも、どうしても恋愛の歌には思うことができなかった。
「なぁに? 明日は紅葉祭なのに、こーんなに眉根寄せちゃって」
 気づけばお母さんの人差し指が私の眉間をつついていた。
 自分の手で、そのしわを伸ばすようにさすりつつ訊いてみる。
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