光のもとでⅠ
ゲームは後半戦も連携プレーがうまくいって二点取り、相手チームには一点も許さず勝ちを決めてしまった。
すごいなぁ……。
うちのクラスは運動神経のいい人が集まっているのかな?
のんきに見ていると、試合終了の挨拶が終わった佐野くんと海斗くんが校舎目がけて最短距離で走りだした。
どうしたんだろう?
ゲームが終わった直後なのに元気がいいなぁ……。
ふたりとも全力で走っているのだろうけれど、やっぱり佐野くんのほうが速い。
少しずつ少しずつ差が広がっていく。
久しぶりに人が走っているところをじっくりと見た気がした。
人の走る姿はきれい。真っ直ぐ、視線の先を目がけて走る様はとてもきれいだと思う。
私のすぐ近くまで来ると、佐野くんが海斗くんに声をかけた。
「じゃ、御園生頼むっ」
と。
佐野くんはスピードを緩めることなく昇降口へと向かう。海斗くんが私のところに着くと、
「翠葉、体育館の場所取り行くよっ」
え……?
「走らなくてもいいし、焦んなくていいからっ。佐野が先に行って場所取ってくれてるはず。でも、急ぐっ」
状況はわからないけれど、とりあえず急ぐ。すると、後ろから「うおおおおおお」と声が聞こえて来て振り向いた。
そこには、全校生徒が体育館に向かう地獄絵図があった。
「何、これっ」
「全校生徒による魔の徒競走っ。翠葉、悪ぃっ」
海斗くんはひょいっと私を横抱きにして走りだした。
「無理無理無理無理っ。海斗くん、下ろしてっ。先に行ってくれていいからっ」
「いや、それこそ無理っ。あんなのの渦中に翠葉置いてったらクラスの人間に吊るし上げ食らう。っつか、桃華が怖ぇっ」
私はそのまま荷物よろしく体育館まで運ばれてしまった。
館内は、パラパラとは人がいるものの、佐野くんが二回中央の最前列と二列目を十五席ずつ押さえていた。
「無事到着おめでとう! じゃ、バトンタッチ」
佐野くんは海斗くんとハイタッチを交わして体育館から出ていった。
「佐野くんはどこへ行っちゃうの?」
サッカーが終わったあとは魔の徒競走、そしてまた走っていってしまった。なんか全然休んでないように思うのだけれども……。
左隣で海斗くんがしゃがみこんで息を整えていた。
けれども、すでに上がっていた息は落ち着きを取り戻し始めている。
すごい回復力……。普段から運動しているとこうも違うのだろうか。
「佐野はまだ集計が残ってるんだって。俺よりも足速いからさ、とりあえず場所取りに走ってもらった」
「……そうだったのね。お疲れ様」
佐野くんが出て行ってすぐに体育館の入り口三ヶ所が人であふれ返った。
「うわ……すごい」
「だろ? もうさ、これは中等部からの恒例行事みたいなもんなんだ」
まだ半分も人が埋まっていないのに、うちのクラスは早くも集まり出している。
「翠葉ちゃん、サッカーの試合のときどこにいたのー?」
ゼーハーゼーハー体全体で呼吸をしている希和ちゃんに訊かれる。
おでこ全開ですごい汗。
私はチビバッグに入れていたタオルで額の汗を拭いてあげながら、
「昇降口前の桜のところ……」
「あーーーっ! 見っかんないわけだ」
クラス全体が疲れきっていた。
「いやさ、俺たち全然見つけられなくてさ、唯一、佐野だけが知ってたんだけど、試合終了するまで全然わかんなくてさ」
と、桃華さんの後ろの席の和光宗紀(わこうむねのり)くん。
「試合終了間際に佐野が海斗と自分がピックアップするからって言ってくれて安心したよぉ」
と、サッカーの試合に出ていた瀬川英介(せがわえいすけ)くん。
「じゃないと、俺ら簾条に何言われるかわかんねーもんな」
クラス全体がカラカラと笑う。
……桃華さん。私がいないところで恐怖政治か何かされていますか?
そんなことを思いつつ、桃華さんが別れ際に言っていた言葉を思い出し、なんとなく納得した。
「もう、翠ちんちっこいからさ」
飛鳥ちゃんと同じくらい背の高いバスケ部の鹿島理美(かしまりみ)ちゃんに言われる。
全部の試合が終わってつかれているところ、観戦しつつ自分を探してくれていたことがひどく嬉しくて、心がほわっとあたたかくなった。
「探してくれて、ありがとう……」
周りにいる人にしか聞こえないくらいの声だったのに、
「翠葉も応援お疲れー」
と、ところどころから声がかかる。
一通りもみくちゃされてから、海斗くんのもとに行く。
「あのねあのね」と内緒話するみたいに近寄ると、「ん?」と背の高い海斗くんが屈んでくれた。
「こんなに楽しい球技大会は初めて!」
「良かったな! でも、これが普通!」
お日様みたいな笑顔で言われる。
「翠葉、英語は得意?」
急に訊かれてびっくりする。
「実はものすごく苦手」
「じゃ、一個覚えようよ! Union is strength! 意味は"団結は力なり"」
"Union is strength."
団結は力なり――。
「……かっこいいね。うちのクラスみたい」
「だろ?」
頭をくしゃくしゃとされたけど、不快感ゼロ。
こんなに楽しい学校行事は初めて。
この高校に来て良かったっ!
すごいなぁ……。
うちのクラスは運動神経のいい人が集まっているのかな?
のんきに見ていると、試合終了の挨拶が終わった佐野くんと海斗くんが校舎目がけて最短距離で走りだした。
どうしたんだろう?
ゲームが終わった直後なのに元気がいいなぁ……。
ふたりとも全力で走っているのだろうけれど、やっぱり佐野くんのほうが速い。
少しずつ少しずつ差が広がっていく。
久しぶりに人が走っているところをじっくりと見た気がした。
人の走る姿はきれい。真っ直ぐ、視線の先を目がけて走る様はとてもきれいだと思う。
私のすぐ近くまで来ると、佐野くんが海斗くんに声をかけた。
「じゃ、御園生頼むっ」
と。
佐野くんはスピードを緩めることなく昇降口へと向かう。海斗くんが私のところに着くと、
「翠葉、体育館の場所取り行くよっ」
え……?
「走らなくてもいいし、焦んなくていいからっ。佐野が先に行って場所取ってくれてるはず。でも、急ぐっ」
状況はわからないけれど、とりあえず急ぐ。すると、後ろから「うおおおおおお」と声が聞こえて来て振り向いた。
そこには、全校生徒が体育館に向かう地獄絵図があった。
「何、これっ」
「全校生徒による魔の徒競走っ。翠葉、悪ぃっ」
海斗くんはひょいっと私を横抱きにして走りだした。
「無理無理無理無理っ。海斗くん、下ろしてっ。先に行ってくれていいからっ」
「いや、それこそ無理っ。あんなのの渦中に翠葉置いてったらクラスの人間に吊るし上げ食らう。っつか、桃華が怖ぇっ」
私はそのまま荷物よろしく体育館まで運ばれてしまった。
館内は、パラパラとは人がいるものの、佐野くんが二回中央の最前列と二列目を十五席ずつ押さえていた。
「無事到着おめでとう! じゃ、バトンタッチ」
佐野くんは海斗くんとハイタッチを交わして体育館から出ていった。
「佐野くんはどこへ行っちゃうの?」
サッカーが終わったあとは魔の徒競走、そしてまた走っていってしまった。なんか全然休んでないように思うのだけれども……。
左隣で海斗くんがしゃがみこんで息を整えていた。
けれども、すでに上がっていた息は落ち着きを取り戻し始めている。
すごい回復力……。普段から運動しているとこうも違うのだろうか。
「佐野はまだ集計が残ってるんだって。俺よりも足速いからさ、とりあえず場所取りに走ってもらった」
「……そうだったのね。お疲れ様」
佐野くんが出て行ってすぐに体育館の入り口三ヶ所が人であふれ返った。
「うわ……すごい」
「だろ? もうさ、これは中等部からの恒例行事みたいなもんなんだ」
まだ半分も人が埋まっていないのに、うちのクラスは早くも集まり出している。
「翠葉ちゃん、サッカーの試合のときどこにいたのー?」
ゼーハーゼーハー体全体で呼吸をしている希和ちゃんに訊かれる。
おでこ全開ですごい汗。
私はチビバッグに入れていたタオルで額の汗を拭いてあげながら、
「昇降口前の桜のところ……」
「あーーーっ! 見っかんないわけだ」
クラス全体が疲れきっていた。
「いやさ、俺たち全然見つけられなくてさ、唯一、佐野だけが知ってたんだけど、試合終了するまで全然わかんなくてさ」
と、桃華さんの後ろの席の和光宗紀(わこうむねのり)くん。
「試合終了間際に佐野が海斗と自分がピックアップするからって言ってくれて安心したよぉ」
と、サッカーの試合に出ていた瀬川英介(せがわえいすけ)くん。
「じゃないと、俺ら簾条に何言われるかわかんねーもんな」
クラス全体がカラカラと笑う。
……桃華さん。私がいないところで恐怖政治か何かされていますか?
そんなことを思いつつ、桃華さんが別れ際に言っていた言葉を思い出し、なんとなく納得した。
「もう、翠ちんちっこいからさ」
飛鳥ちゃんと同じくらい背の高いバスケ部の鹿島理美(かしまりみ)ちゃんに言われる。
全部の試合が終わってつかれているところ、観戦しつつ自分を探してくれていたことがひどく嬉しくて、心がほわっとあたたかくなった。
「探してくれて、ありがとう……」
周りにいる人にしか聞こえないくらいの声だったのに、
「翠葉も応援お疲れー」
と、ところどころから声がかかる。
一通りもみくちゃされてから、海斗くんのもとに行く。
「あのねあのね」と内緒話するみたいに近寄ると、「ん?」と背の高い海斗くんが屈んでくれた。
「こんなに楽しい球技大会は初めて!」
「良かったな! でも、これが普通!」
お日様みたいな笑顔で言われる。
「翠葉、英語は得意?」
急に訊かれてびっくりする。
「実はものすごく苦手」
「じゃ、一個覚えようよ! Union is strength! 意味は"団結は力なり"」
"Union is strength."
団結は力なり――。
「……かっこいいね。うちのクラスみたい」
「だろ?」
頭をくしゃくしゃとされたけど、不快感ゼロ。
こんなに楽しい学校行事は初めて。
この高校に来て良かったっ!