光のもとでⅠ
「今日ね、私が歌うものは恋愛の歌が多いよね、って話になったのだけれど、私、言われるまで全く気づかなくて……」
 それどころか、言われた今ですら、そう解釈することができずにいる。
 お母さんはパラパラとファイルをめくって、
「いいんじゃない?」
 カラっとした声で言う。
「翠葉が感じたことを表現すればいいんじゃない? 大切なのは伝えたいという気持ちでしょう?」
 その言葉に茜先輩の言葉が重なった。
「……うん、それでいいことにする」
 ストン、と胸に落ちた言葉に、私はピアノの蓋を閉め、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「久しぶりなんだから、ゆっくりお風呂に入ってきたら?」
「うん、そうする」
 長く浸かれる気はしないけど、時間を気にせずにお風呂に入れるのは嬉しい。
< 5,000 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop