光のもとでⅠ
 今まで感じたことがないような穏やかな時間。
 ほかの女とこんなに穏やかな時間を過ごしたことがあっただろうか……。ないな――。
 基本はセックスが目的で、相手に癒しを求めたことはなかった。
 女たちにとってはセックスそのものが癒しになっていたかもしれない。が、俺にとっては単なる性欲の刷毛口にすぎなかった。
 ……俺、やな男だな。
 そんな俺を蒼樹は見てきているわけで、それを思えば牽制されても仕方なかったと思う。
 俺のような危険人物に大切な妹を渡したいわけがない。
 わかるよ、蒼樹……。今ならわかる。
 けど、俺、HIVの検査をしてしまうくらいには本気だ……。
 翠葉ちゃんを手に入れたいと思ってからはいい加減な付き合いは一切していない。
 現在禁欲生活まっしぐらなわけで――だから隣を歩く彼女がほしいと思う気持ちにブレーキをかけるのが大変なわけで……。
 そうこう男の欲望を考えていると、隣の彼女の歩みが遅くなった。
 何かと思って隣を見れば、俺の視界にはきれいにスタイリングされた頭しか目に入らず――。
 俺、気づくの遅すぎ……。
 彼女の頭には誕生日にプレゼントした髪飾りがついていた。
 嬉しくて彼女を抱きしめる。
 大切なものを抱きしめるように、腕の中の彼女が壊れてしまわないように――。
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