光のもとでⅠ
 道は五十キロ走行ができる程度で、やはり反対車線の市街へと向かう道のみが混んでいた。
 目的地が近づくに連れて彼女の言葉は少なくなる。
 顔が……表情が幾重もの薄い霧を覆うかのように曇っていく。
 やっぱり振られるんだな……。
 今、彼女はどう切りだそうかと悩んでいるのだろう。
 そんなふうに、心を痛めるほどに悩んではほしくないのに……。
 手元に視線を落としていた彼女は公園に着いたことにすら気づかなかった。
 車を降り助手席側へ周ってドアを開ける。
「着いたよ」
 と、手を差し出せば、彼女はとても驚いた顔をした。そして、俺の手をじっと見ていた。
 こんな表情は何度見ただろうか。
 差し出したその手に彼女の手が重ねられると、ぐい、と引っ張りあげるように力を入れた。
 少しふらつく彼女をしっかりと自分の腕に抱きとめる。
 彼女は、その力や腕に逆らいもせず、赤面したり慌てたりすることもない。
 身を預けてくれているというよりも、どこか意識が遠くにある感じだ。
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