光のもとでⅠ
「何泣いて――」
 手に持っていたトレイをテーブルに置き翠に近寄ると、手がうっ血するほど強く携帯を握り締めていた。
「それ、電源入ってないんだけど」
 翠はボロボロと涙を流しながら、「ツカサ」と小さく俺を呼んだ。
 それは俺の脳内で「助けて」という言葉に変換される。
 泣いている理由は具合が悪いとかその類ではなく、「気持ち」のほう――昨日、話したことに関するものだと察しがついた。
「……なんとなく、翠のほうが負けそう」
 翠の手と携帯を見た俺の感想。
「翠の力じゃどんなに力を入れて握ったところで携帯は壊れない。でも、逆に自分の力の作用で翠の手が壊れそう」
 そう言って、翠の手から携帯を取り上げた。
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