光のもとでⅠ
 手を引かれて歩く彼女はずいぶんと長い間放心状態だった。
 駐車場に戻り、いつものように助手席へ座らせドアを閉める。
 彼女は俺が運転席に乗ってもまだシートベルトにすら手を伸ばさない。
 これ幸いと彼女の前を横切り様に、
「シートベルトは締めないとね」
 と、キスをした。
 途端に目が見開かれる。
 けれど、何を言うでもなく、ただ両手だけが素早く動き、口もとを押さえた。
「君は本当に無防備すぎるんだ。今後は少し警戒したほうがいいかもよ?」
 俺の前ではそのままでいい。ほかの男の前では警戒してくれ……。
 彼女の家に着くと一度エンジンを切り、後部座席に乗せていた荷物を玄関の中まで運び込む。
 いつもなら、見送ってくれる彼女をバックミラーで見るのが楽しみでもあるけれど、今日はいかなる場所でも彼女を人目に触れさせたくはなかった。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。でも、見送りはいいよ」
 俺の言葉は聞くつもりがないらしく、外に出てこようと自分のあとに続く気配がする。
 ドアの前で立ち止まると、俺の背中に彼女がぶつかった。
「ごめんなさ――」
 謝りながら額を押さえようとあげた右手を取り、そのまま抱きしめる。
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