光のもとでⅠ
「今日の翠葉ちゃんは人目に触れさせたくないんだ。本当はね、このまま攫っていきたいくらいなんだよ」
 彼女の目を見て、そのまま唇を塞いだ。
「っん……」
 深く深く――ただ彼女を感じたくて、唇も舌もすべてを貪りつくすように口付けた。
 一度口付けると止まらなくなる。
 何度も何度も角度を変え、彼女の唇を食む。
 捕らえた彼女の手はしだいにあたたかくなってくる。全身が火照るほどに感じさせたいけれど、今は"そのとき"じゃない。
 唇を解放したとき、彼女は肩で息をするほどに息が上がっていた。
「翠葉ちゃん、キスのときは鼻で呼吸してね」
 いたずらっぽく笑う。
 その言葉を発したときにはすでに真っ赤で、それ以上赤くなることなどできないようだった。
 それ以上赤くなることはないかもしれない。でも、それ以上の快感はあるんだよ。
「今回は俺にいたらなかった部分があって無駄に翠葉ちゃんを傷つけてるから一端引く。でも、次に返事をもらうときはいい返事しかもらうつもりはないから」
 彼女をそのまま置き去りにするような形で御園生家をあとにした。
「少しは逃げるなり嫌がるなりしてくれればいいのに……」
 これではどうやっても諦めなんかつくわけがない。
 次からはキスをする際に了承くらい得たほうがいいだろうか。でも、次っていつだよ……。
 ……そこは俺しだい、かな。
 翠葉ちゃん、申し訳ないけど、俺はかなりしつこいし独占欲も強いみたいだ。
 どう言ったらいいのかわからないけれど、強いて言うなら「ご愁傷様」かな。
 車を発進させると妙な言葉が頭をよぎった。
 ――好きな女と麻薬はなんら変わらない。
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