光のもとでⅠ
 記憶をなくす前もなくしたあとも、翠はいつだって秋兄の前でうろたえたり赤面したりする。
 その意味は前とあとで異なるものなのか、同じものなのか、俺にはわからない。
 頭の中に、「五十文字以内で簡潔に述べよ」という文章がテロップよろしく流れた。
 それが訊けたら苦労しない、と自分の脳内に文句を言う。
 翠はゆっくりと立ち上がり、ダイニングテーブルに置かれた携帯を取りに行く。と、
「秋斗さん、これ、ありがとうございますっ」
 テーブルに置かれた用紙を見て嬉しそうに笑った。
 置かれていたものはきっと起案書のフォーマット。
「どういたしまして。あとで生徒会のメールアドレスに添付ファイルで送っておく。俺が学生時代に作ったフォーマットよりはいいんじゃない?」
 最後、意味深な目を秋兄に向けられた。
 それは、さっき引っかかった「何か」に通じるものがある。
 その「何か」を考えつつ部屋を出ようとしたところにインターホンが鳴った。
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