光のもとでⅠ
 あぁ、考えてみれば桜の花が終わって緑が深まる少し前くらいだったかもな。
 今年の春を思い出し、そんなことを思った。
 俺は翠葉ちゃんと出逢うまで、季節の移り変わりなんてものに興味はなく、ただカレンダーの数字のみを見て生きてきたにすぎない。
 工事明けなんてタイミングでなければ、二年前、としか記憶していなかっただろう。
 別に助けるつもりも関わるつもりもなかった。
 単なる偶然だった。
 授業参観と保護者会があった日のこと。
 俺はたまたまその場に居合わせてしまっただけだ。
 通りすがりに会話を聞いてしまったというのが正しいか……。
 猿――もとい、加納の両親が彼女に吐いた辛辣な言葉の数々を。
 あれは会話にもなっていなかったな。
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