光のもとでⅠ
「翠葉ちゃん、若槻にはリハビリの場と時間が必要なんだ。それをわかったうえで静さんもここに来させたはずだから。君がそんな顔をする必要はないよ」
 先輩は言いながらベッドサイドへ移動し、
「だから泣かないで」
 と、涙を指で掬う。
 今、翠葉のことは秋斗先輩に任せればいい……。
「俺、ちょっと若槻くんの様子見てきます」

 さっきまで作業していた部屋に戻ると、若槻くんは部屋の突き当たりで立ち尽くしていた。
「妹さん亡くされたって、今聞いた」
「……情けないところ見せて申し訳ないです」
「……そんなふうに言わなくていい。俺も、一度翠葉を失いかけてるから気持ちは察する……。それでも、失ったのと失いかけたのでは全然違うんだろうけれど」
「……失うと、後悔しか残らないんですよ。ただ、それだけです」
 そう答えた彼の背中はひどく憔悴していた。
「な、ちょっとだけ年上面させてほしい。椅子でもベッドでもどっちでもいいから掛けて」
 彼は素直に応じた。
 やっと見ることができた彼の表情は蒼白だった。
< 548 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop