光のもとでⅠ
 コートに下りると、クラス委員に誘導される。
 各種目代表はそのまま表彰台に乗り、クラス代表は結果発表が最後になるため、中央の表彰台の前に学年別クラス順で縦三列に並んだ。
 私は一番左の列の前から二番目。
 斜め前には藤宮先輩がいて、その隣には加納先輩がいる。
 ……あれ? クラス委員は実行委員だからダメって言っていたけれど、生徒会は執行部になるんじゃないのかな?
 私に気づいた加納先輩が小さく手を振ってくれた。私は、手は振らずに笑みを返す。そうこうしていると表彰式が始まった。
 サッカー、ハンドボール、バレー、バスケの順に男女別で表彰状が渡されていく。
 表彰状を渡していたのは、先ほど図書室で会った里見先輩だった。
 あれ、本当は加納先輩のお仕事じゃないのかな……。
 そんなことを考えつつ見ていると、私とさして身長の変わらない里見先輩は踏み台に乗って賞状を渡していた。
 そうですよね……。表彰台の上の人に渡すには台が必要ですよね。加納先輩でも踏み台を使うんだろうか。それとも、あの先輩のことだから飛び跳ねちゃうのかな……。

 サッカーでは高木理一(たかぎりいち)くんが優勝カップと賞状を受け取った。
 女子は四位だったらしい。ハンドボールは男子も女子も三位。木下大人(きのしたひろと)くんと江波沙代子(えなみさよこ)ちゃんがきている。
 バレーは残念なことに男女とも四位。バスケは男女共に三位で、理美ちゃんと小川くんが来ている。
 恐ろしいことに、ほとんどの種目の一位と二位が三年A組と二年A組の入賞だった。
『それではっ、総合順位の発表です! 上位三組はもうおわかりかと思いますが、お決まりのワースト二十四位からの発表となります! さて、ワースト三位に呼ばれてしまったクラスの皆様方、恒例のバツゲームありですよ! まず二十四位は一年G組! 来月、桜香苑の池のお掃除お願いします! 運がよければ何かお宝が見つかるかもしれません! 二十三位は三年D組! 梅香苑の六月の仕事が用意されています! 梅の実の回収ですね。この時期、蛾の幼虫がうじゃうじゃいるので気をつけてください! 回収した梅は二ヵ月後に学食のメニュー、梅ジュースとして販売されます! 二十位は二年F組! あ……このバツゲームはなかなかいいんじゃないでしょうか? 温室プールの掃除です。あ……あまり良くないですね。水を抜いての掃除に加え、窓磨きだそうです。以上っ! ワースト三位のバツゲーム紹介でした! さ、じゃんじゃん行きますよー!』
 こんな調子で飛鳥ちゃんのトークが延々と続く。
 バツゲームまであったとは驚きだ。
 梅は回収したらちゃんと漬けるのね。梅ジュースは飲みたいなぁ……。
 まだ学食には足を踏み入れたことがないのだけど、そのときは桃華さんと飛鳥ちゃんを誘ってみようかな……。
『さ、ではお待ちかね、上位三位の発表です! まずは三位! わがクラス一年B組! そして二位は三年A組! 光り輝く一位はっ、二年A組ですっ! 代表者は、勝利の女神こと、御園生翠葉! キラキラ王子と猿の二面性を持つ加納会長! 闇の帝王こと藤宮司先輩っ! 表彰台へどうぞっ!』
 名前を呼ばれて前へ出て、台を目の前にして困ってしまう。
 やっぱり台はとても高かったのだ。ぱっと見、六十センチはある気がする。
 加納先輩はぴょんと飛び乗った。
 よじ登るほど高くはないけれど、平均身長以下の私としては、一足で上がるのにはちょっとつらい高さ。
 白い台をじっと見ていると、目の前に手が差し出された。
 顔を上げると、藤宮先輩の手だった。
「ほら、手……」
 少しドキドキしながら自分の手を重ねると、反動もつけずにす、と引き上げてくれた。
「ありがとうございます」
「これ……次からは踏み台いるな。まさか女子がクラス代表に出てくるとは想定していなかった」
 表彰台に乗って気づいたのだけど、クラス代表で集まっていた集団に私以外の女子はいなかった。
 私、クラス全員に嵌められたのかな……?
 目の前には里見先輩と春日先輩、荒川先輩が来る。
 春日先輩はカップを乗せたカートを押しつつ、里見先輩の踏み台を片手に持っていて、荒川先輩は賞状を入れたトレイを持っている。
 里見先輩はトレイから賞状を一枚手に取ると、
「一年B組代表、御園生翠葉。あなたのクラスは春の球技大会において、抜群のチームワークを発揮され、優秀な成績をおさめられました。よって、これを賞します。おめでとう!」
「ありがとうございます」
 賞状を受け取るとカップを差し出され、「おめでとう!」とお花が咲いたような笑顔で言われた。
 カップを受け取ると、会場からも拍手があった。
 ちょうどこの表彰台の前の観覧席を陣取っているのが自分のクラスで、「翠葉ちゃーん!」とたくさんの声をかけてもらえた。
「わ……」
 すごい……。観覧席からの応援はこんなふうに届いていたのかもしれない。
 私、この役をやらせてもらわなかったら知ることができなかった。
 順番に加納先輩と藤宮先輩も賞状とカップを受け取る。藤宮先輩がカップを受け取ったとき、一際大きな拍手が起こった。
「「「「「翠葉ちゃーーーんっ!」」」」」
 複数の声が降ってきた。でも、位置が特定できなくてきょろきょろしていると、
「翠葉ちゃん、あっちあっち」
 と、加納先輩が教えてくれた。
 それは観覧席とは全く違う場所。体育館の天井裏にボールが入ってしまったときに使われるクレーンである。
 そこに写真部の先輩が四人カメラをかまえていた。
 見た瞬間にフラッシュがたかれる。
「あそこ、俺の特等席なんだけど三年最後だしさ、写る側に回るのもいいかな、と思って部員を誘導してきたんだ」
 そんな話を聞いて、ちゃんと部長なんだ、なんて思った。
「翠葉ちゃん、顔がね――」
 全部言われる前に謝る。
「すみません……。加納先輩ごめんなさい」
 それらを見ていた藤宮先輩が呆れたように薄く笑う。
「翠葉ちゃん、大丈夫。翠葉ちゃんにどんなふうに思われてるのかは初対面でだいたい心得てるから。でも今はさ、どうせだから笑おうよ! ほら、上見てさっ!」
 加納先輩につられて上を見た。
『みなさん、お疲れ様でしたー! 次は七月の陸上競技大会です! 三学年全体で盛り上げていきましょう! 放送委員はどんなイベントでも全力投球でがんばらせていただきます! 何か面白い飛び入りイベントを考えている方はぜひっ、放送委員までご一報ください! これにて、第三十三回春の球技大会を閉会いたしますっ! メインリポーター、一年B組立花飛鳥でした!』
 わああああああっっっ――。
 体育館全体が盛り上がったところで、球技大会は終わった。
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