光のもとでⅠ
「……何?」
「大丈夫か?」
「……大丈夫だよ」
 強張った顔を必死で笑顔に変えようとしていた。
 またか――また、言ってもらえない。
「……泣きたいときは泣いていいし、無理に笑わなくていい。無理に大丈夫なんていわなくてもいいから」
 トレイをテーブルに置き、翠葉の額に手を乗せると、ひんやりとした体温が伝わってきた。
 翠葉の目から零れた涙が頬を伝い落ちる。
「お姫――リィはなんで泣いてるの?」
「なんで、でしょう……。時間の流れが、ゆっくり過ぎて……かな」
「時間の流れ?」
 毎年のことだな……。
 この時期を翠葉は苦痛に感じる分、普段とは違う時の流れの中に身をおいているのだろう。
 それは俺もさして変わりはないけど、翠葉は体も自由に動かせない分、余計に時間が長く感じるのかもしれない。
 俺は正真正銘の健康優良児で、怪我という大きな怪我もせずに過ごしてきているから、実際のところはベッドから動けない、という状況を体験したことすらない。
 それに比べ、毎年そんな時期があるという翠葉が感じるストレスはどれくらいのものなのか……。
 そんなことはいくら考え想像したところで、想像以上のものにはなり得ない。
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