光のもとでⅠ
「……人ってさ、つらいときや嫌なことやってるときって時間が進むのがゆっくりに感じたりしない?」
「あぁ、それならわかるかも」
「蒼くん、そのスープは若槻くんにお願いしたら?」
 栞さんに言われて、それがいいと思った。
「あぁ、そうですね。若槻くん、頼める? このスプーンで一口ずつしか飲めないんだけど」
 トレイを前に戸惑っているのが良くわかる。
「最初は蒼くんがお手本を見せてあげたらどうかしら?」
 言うと、栞さんは部屋から出ていった。
 きっと、栞さんも若槻くんが抱えているものを知っているのだろう。
「あーぁ……。その役、俺がやりたいの山々なんだけど……。しょうがない、若槻に譲るか」
 秋斗先輩も部屋を出ていき、部屋には俺と翠葉と若槻くんが残った。
「あ、の……蒼兄、やっぱり――」
 翠葉も彼に負けないくらいには動揺しているらしい。
 でもさ、ふたりとも少しがんばってみようよ。
「若槻くん、こうやるんだ」
 スプーンに少しスープを掬って翠葉の口もとへ運ぶ。と、翠葉は条件反射のように口を開いた。
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