光のもとでⅠ
「一日にこれ三回だけ?」
「あ、えと……本当に、今だけ……だと思います」
 翠葉は口にした言葉に嘘が含まれてるかどうかを気にしているような話しぶり。
「嘘うそ、疲れてるときや具合の悪いときはたいていこれしか口にしない。あとがんばって食べるとしたらアンダンテのタルトくらいだよ」
 すぐさま、「蒼兄っ」と抗議の目を向けられた。
「だって本当のことだろ?」
 急には無理だろう。でも、若槻くんにリハビリが必要なのと同じで、翠葉にも必要なリハビリだと思う。
「翠葉、しばらくは兄がふたりいるんだ。おまえのリハビリにもなるよ。人に甘える、頼るってことをもう少ししてごらん」
 徐々にでいい、少しずつでいいから。
 少し沈んだ空気のところ、炭酸のように軽快な声が降ってくる。
「じゃ、即ち蒼樹さんは俺のあんちゃんですね」
「若槻くんは二個下だっけ?」
「二十ニです」
「じゃ、そうだな。俺には当分の間は弟がいることになる」
 さっきもらった名刺を胸ポケットから取り出し、名前を確認して「唯」と声をかけた。
 彼は目を丸くしてすぐに細める。
「なんかくすぐったいですね。俺のことを唯って下の名前で呼ぶの、今じゃ蔵元さんだけなので」
 はにかんだ顔でそうは言うけれど――。
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