光のもとでⅠ
 まるでナイフのように鋭利なそれを自らの手で自らの心に突き立てる。
 なんて悲痛な姿だろう……。
 そんな茜先輩を前に、私はかけられる言葉ひとつ持っていなかった。
 私とは環境が違う。
 私が持つ感情は対人ではない。自分の身体に対する不満だ。
 感情を重ねることができたとしても、そのほかの事情が違いすぎる。
 自分の非力さを痛感した。
「マンションでボイトレしたことがあったでしょう?」
「はい……」
 私はこんな一言にすら慎重になる。
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