光のもとでⅠ
 せっかく空太くんが作ってくれたのに、一度も口にしていなかったことに気づいて愕然とする。
 これをそのまま持ち帰るのはなんと心苦しいことか……。
「さ、行って!」
 立ち上がるように腕を引かれ、さらには背を押される。
 私は茜先輩を置いていくのが気がかりで、なかなか足を踏み出せないでいた。すると、
「翠」
 仄暗い通路から手が伸びてきて、手首を掴まれた。
 見えなかった姿が今はくっきりと見える。
「いつまでもここにいたら、茜先輩が五分で戻れなくなる。この人は走って戻ってくるつもりだ。それまでに翠は奈落に戻ってる必要があるし、それも飲まなくちゃいけないんだろ?」
 後ろからクスリ、と笑う声が聞こえた。
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